コア・サテライト投資の比率は何割が正解か — 「コア70%」の出典を確かめに行ったら、消えていた
「コアは約70%」——コア・サテライト投資の解説でよく見かける目安です。ところが出典をたどると、この数字を明記していたBlackRock豪州のページは削除されて404。日本語の定番資料だったバンガードのガイドPDFに至っては、そもそも比率を推奨していませんでした。
消えた原文はWayback Machineのアーカイブで確認しました。その上で、いま読める解説と一次資料だけを根拠に、比率の相場観から新NISAでの当てはめまでを検証し直しています(2026年7月25日時点・編集部構成)。
コア・サテライト投資とは — 「守りの土台」と「攻めの衛星」
ポートフォリオを2つの層に分ける考え方です。コア(中核)には市場全体に低コストで分散投資するインデックスファンドやETFを置き、市場並みのリターン(ベータ)を安定的に確保する。サテライト(衛星)には個別株・テーマ株・アクティブファンドなど、市場を上回るリターン(アルファ)を狙う攻めの投資を小さく配置する——という役割分担です。
狙いは2つあります。第一に、資産全体の成否を「攻め」の当たり外れから切り離せること。サテライトが外れてもコアが市場並みに育っていれば、全体は大きくは壊れません。第二に、コストの節約です。運用コストの高いアクティブな投資を一部に限定し、大部分を年0.1%未満の低コスト商品で運用すれば、ポートフォリオ全体の平均コストは大きく下がります。
この「パッシブな市場ポートフォリオ+アルファを狙うアクティブポートフォリオ」という2部構成は、後述するとおり1973年の学術論文にまで遡る、歴史の長い枠組みです。
検証① 「コア70%」の出典は、もう存在しない
「コアは70%」という数字の出どころとして最も明確なのが、BlackRockオーストラリアの旧解説ページ「Portfolio Construction」でした。2021年1月時点のアーカイブに、次の記述が確認できます。
“Core investments make up the larger part of the portfolio - typically around 70%.”
(コア投資はポートフォリオの大部分——通常約70%——を占める)
出典:BlackRock Australia「Portfolio Construction」2021年1月15日時点のWayback Machineアーカイブ
しかし2026年7月25日に確認したところ、この旧URLはリダイレクトの先で404になっており、blackrock.comのサイト内検索・Google検索でも“typically around 70%”という文言は見つかりません。つまり「BlackRockはコア70%と言っている」と現在形で書くことはもうできず、正確には「BlackRock豪州の旧解説(2021年、現在は削除)がそう説明していた」です。定番とされる数字でも、出典ごと消えることがある——という実例です。
検証② バンガード日本のPDFは、比率を推奨していなかった
バンガード日本の12ページのガイド「コア・サテライト投資——強力な投資戦略」(©2012年制作)は、Wayback Machineに全文が残っています。読み直して分かったのは、意外な事実でした。このPDFのどこにも「何割にすべき」という推奨はありません。それどころか、逆のことが繰り返し明記されています。
「ポートフォリオ内におけるコアとサテライトの比率は、個人の投資目標や環境、リスク特性によって異なります。」
出典:バンガード・インベストメンツ・ジャパン「コア・サテライト投資」ガイドPDF(Wayback Machineアーカイブ、2020年12月取得版)p.4
p.7でも「バランスは最終的には各投資家が許容できるリスクの程度によって決定される」とし、例示の円グラフには「配分比率を推奨するものではありません」との注記まで付いています。バンガードは「比率の出典」ではなく、「一律の正解はない」と明言した側だったのです。
なぜアーカイブでしか読めないのか — バンガード日本撤退の時系列
このPDFが原URLで読めないのは、バンガードが日本から撤退したためです。同社のアーカイブされた告知によれば、2020年8月26日(米国時間)に日本・香港拠点の閉鎖方針を発表し、約20年間の日本での営業活動を段階的に終了。2021年2月28日に日本語サイトを閉鎖して金融商品取引業を廃業しました(廃業届出は3月1日)。現在、旧ドメイン vanguardjapan.co.jp へのアクセスは、代行協会員を引き継いだTeneo Partnersのページへリダイレクトされます。
では、いまの「相場観」はどこにあるか — 現行解説8本の比較
元の出典が消えた以上、現在アクセスできる解説で相場観を取り直すのが筋です。日本の証券・運用会社と海外の現行(またはアーカイブ確認済みの)解説を並べます。
| 発行元 | コア比率の目安 | 時点 |
|---|---|---|
| 楽天証券トウシル | 8割以上(サテライトは2割以下に) | 2026年3月 |
| SBI証券(NISA解説) | 90%・80%・70%の3例をリスク許容度別に例示 | 2026年7月 |
| フィデリティ投信 | 7:3が目安、ただし「明確なルールはない」 | 2025年5月 |
| ジャパンネクスト証券 | 7〜9割 | 2024年11月 |
| 野村證券 Wealth Style | 「8割もしくはそれ以上」も選択肢 | 2024年4月 |
| 楽天証券FAチャンネル | 70〜80% | 2023年10月 |
| 東証マネ部!×光世証券 | 「7〜8割が一般的」 | 2023年7月 |
| Vanguard APAC投資責任者(豪Morningstar取材) | 「例えば80%」をパッシブに | 2024年9月 |
| (参考・削除済み)BlackRock豪州 | 「通常約70%」 | 2021年1月 アーカイブ |
※各リンク先は外部サイトです。フィデリティ投信の記述は検索エンジンに保存された要約からの確認で、他はページ本文で直接確認しています。
現行の日本の解説はコア7〜9割に収束しており、最頻値は7:3〜8:2です。時系列でみると、2021年の「約70%」から、近年はより保守的な「8割以上」を挙げる解説が増えているのも見て取れます。ただしどの解説も「目安」であることを強調しており、唯一の正解として扱っているものはありません。
理論の背景 — 1973年のTreynor-Blackまで遡る
コア・サテライトは証券会社のマーケティング用語ではなく、学術的な土台があります。原型はTreynor and Black(1973)が Journal of Business 誌に発表したモデルで、最適なポートフォリオを「市場全体を時価総額比で持つパッシブなインデックス部分」と「アルファの予測を持つ銘柄だけを集めたアクティブ部分」の2部構成として導きました。国際金融の査読誌でも、このモデルは「コア・サテライト・アプローチの理論的基盤を確立したことで知られる」(Wallmeier & Iseli 2022, Journal of International Money and Finance)と整理されています。
では比率はどう決まるのか。実務側の定式化としてはAmenc, Malaise & Martellini(2004, The Journal of Portfolio Management)が知られており、コアとサテライトの配分を「ベンチマークからの乖離(トラッキングエラー)をどこまで許容するかの予算配分」として扱います。つまり理論的にも、比率は外から与えられる定数ではなく、各自のリスク許容度から導かれる変数——バンガードの旧ガイドの「投資家次第」という説明は、この理論と整合的です。
新NISAに当てはめると — 「つみたて枠=コア」は公式の対応ではない
まず正確に書くと、金融庁のNISA公式説明にコア・サテライトという言葉は登場しません。つみたて投資枠(年120万円、積立・分散に適した一定の投資信託)と成長投資枠(年240万円、上場株式・投資信託等)は、あくまで併用できる2つの枠として中立に説明されています。
その上で、証券会社の解説では緩やかな当てはめが定着しつつあります。東証マネ部!×光世証券の解説は、コアは「つみたて投資枠で投資可能な商品」で運用し、つみたて投資枠では買えない個別株などのサテライトは成長投資枠で、という整理です。SBI証券も2026年7月にNISA文脈でコア・サテライトの資産配分例(コア90/80/70%)を解説しています。
注意したいのは、これが完全な一対一対応ではないことです。成長投資枠でも低コストのインデックス投信やETF(コア向き商品)は購入できます。「コアの積立はつみたて枠を優先し、成長枠は、コアの上積みにもサテライトにも使える自由枠」と捉えるのが、制度の実態に合った理解です。
コアの道具立て — 年0.05〜0.09%まで下がったコスト
コア・サテライトの「コアは低コストで」という前提は、この数年でかつてなく実現しやすくなりました。2026年7月時点の代表的なコア向き商品のコストです。
| 商品 | 種別 | コスト(年率) |
|---|---|---|
| eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | 投資信託 | 信託報酬 0.05775%以内(税込) |
| NEXT FUNDS TOPIX連動型(1306) | 東証ETF | 0.0542%(税込・段階料率) |
| iシェアーズ S&P500(1655) | 東証ETF | 約0.066%(税込) |
| MAXIS全世界株式(2559) | 東証ETF | 約0.0858%(税込) |
いわゆる「オルカン」の信託報酬は2023年8月の引き下げで0.05775%となり、純資産は13兆円を超えています(2026年7月時点・公式ファンドページ)。コア側の年間コストは0.05〜0.09%——仮にコア8割をこの水準で持てば、ポートフォリオ全体の加重平均コストはサテライト側にかなり高コストな商品を置いても抑えられます。東証ETFの分配金利回り・総経費率は東証ETFデータ一覧で、個別の解説はETF解説ハブで横断比較できます。
サテライトの情報源 — 「攻め」の仮説をどこから得るか
サテライト側に何を置くかは各自の判断ですが、当サイトでは「攻め」の仮説づくりに使える一次情報ベースのコンテンツを公開しています。著名投資家がSECに提出した13Fの保有銘柄まとめと8ファンド横断の共通保有ランキングは、プロの「攻め」の現在地を定点観測する材料になります。個別テーマでは米国政府IT・SAR衛星・銅の銘柄コラムを、いずれも一次資料で検証した上で公開しています。
⚠ 留意点
- 比率に一律の正解はありません。本記事で確認したとおり、バンガードの旧ガイドは「個人の投資目標・環境・リスク特性によって異なる」と明記し、フィデリティ投信も7:3は目安にすぎないとしています。年齢・収入・投資期間・下落時に耐えられる金額によって適切な配分は変わります。
- サテライトは市場平均を下回り得ます。アルファを狙う投資は、その分だけベンチマークから乖離するリスク(トラッキングエラー)を取る行為であり、コアより高コストな場合も多くあります。
- 出典と数字は変化します。「コア70%」の出典ページが削除されていたように、運用会社の解説・商品のコスト・制度は変わります。本記事の数値はすべて2026年7月25日時点の確認結果です。
- 本記事は考え方の紹介であり、特定の配分比率・銘柄・商品を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
一次情報(公式資料・アーカイブ)
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本記事はWayback Machineに保存された運用会社の公表資料・各社の現行解説ページ・金融庁/JPXの公表資料・学術文献等の公開情報を基に当サイトが整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の資産配分比率や金融商品の購入・売却を推奨・勧誘するものではありません。記載内容は作成時点のものであり、今後変更される場合があります。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:Wayback Machine(BlackRock豪州2021年版・バンガード日本ガイドPDF/撤退告知)、楽天証券・SBI証券・フィデリティ投信・野村證券・ジャパンネクスト証券・東証マネ部!の各解説、金融庁NISA公式、JPX ETF一覧、eMAXIS Slim公式、Treynor & Black (1973)、Wallmeier & Iseli (2022)、Amenc et al. (2004)(2026年7月25日時点)。