銅株の現在地 — 「EVの金属」から「AIの金属」へ
2021年2月の銘柄メモにはこうありました。「最近はEVのモーター用途での需要増。労働争議の影響を受ける印象があるので、労働協約更新には注目」。あれから5年——銅はCOMEXで約$6.4/lb(LMEで約$14,000/トン)と史上最高値圏にあり、需要の主役にはAIデータセンターと送電網が加わり、供給を止める主因は労使交渉から「司法判断・事故・関税」に変わりました。
本記事はそのメモを土台に、需給統計(メモは2018年版データでした)・価格・個別銘柄・ETFのすべてを2026年7月25日時点で検証し直して編集部が構成したものです。訂正は10件。ADRが消えた銘柄(ベダンタ)もあれば、メモの後に生まれた新顔(銅特化になったTeck、上場したJX金属)もあります。
価格はこの5年で何が起きたか — 関税で史上最大の急騰と急落
- 2021年2月(メモ時点):COMEX約$4.4/lb。EV需要への期待が主役。
- 2024年5月:COMEXが当時の史上最高値$5.20/lbを記録。
- 2025年7月 — 関税騒動:7月8日に「銅50%関税」が表明され1日で+13%、7月24日に盤中最高値$5.90へ。ところが7月30日の大統領布告で精製銅(カソード)は対象外・半製品のみ50%と判明し、2日で約22%という史上最大級の急落に。関税の建付けを読み違えた投機の巻き戻しでした。
- 2025年9月〜:Grasberg鉱山事故(後述)で供給不安が再燃し反騰。
- 2026年:LMEは6月2日に$13,966/トンの史上最高値。7月24日時点でCOMEX $6.36/lb・LME $13,617と最高値圏で推移。米国の輸入依存(57%)を背景に、COMEXはLMEに対し$400〜600/トンのプレミアムが乗った状態です。精製銅への段階関税(2027年から15%→2028年から30%)を発動するかの大統領判断は、2026年7月時点でまだ宙づり——これ自体が目先最大の価格イベントです。
需要側の景色も変わりました。EV・再エネに加えて、AIデータセンターの配電・冷却と、送電網の増強投資が主役級のドライバーに(S&P Globalは2026年1月に「AI電化時代の銅」と題したレポートを公表)。IEAは既存+計画鉱山では2035年需要の約7割しか賄えないと試算し、ICSGは2026年に需給が15万トンの不足へ転じると予測します。一方で「AIの銅需要は強気派の期待ほどではない」(Reutersコラム)という慎重論もあり、期待先行への警戒は持っておくべきです。
需給地図の更新 — メモの統計は2018年版だった
| 指標 | メモ(2018年データ) | 現在(USGS 2025年推定・ICSG 2023年) |
|---|---|---|
| 鉱石生産1位 | チリ 28% | チリ 23%(530万t) |
| 鉱石生産2位 | ペルー 12% | DRCコンゴ 14%(320万t) |
| 精錬生産1位 | 中国 38% | 中国 48%(1,400万t) |
| 日本の精錬 | 世界3位・7% | 世界4位・140万t |
| 消費1位 | 中国 52% | 中国 58% |
| 埋蔵量1位 | チリ 21% | チリ 18%(1.8億t/世界9.8億t) |
最大の変化はDRCコンゴの台頭です。2023〜24年にペルーを抜いて世界2位の鉱石生産国になりました。逆にインドネシアはGrasberg事故で2025年の生産が約3割減。米国は精製銅の輸入依存度57%で、関税前の2025年には駆け込み輸入がほぼ倍増し、2025年11月には銅がCritical Mineralsリストに追加されています。日本国内の用途構成(電線3分の2・伸銅品3分の1、電線需要の約半分が建設)はメモの頃から大きく変わっていませんが、内需の総量は5年で約23%縮小し、日本の製錬各社は輸出比率を高めています。
供給を止めたのは労使ではなかった — この5年のショック3連発
メモの「労働協約更新に注目」という視点はいまも有効です(Escondidaでは2024年8月にストが発生し短期妥結、2025年末〜2026年初にも争議と道路封鎖がありました)。ただし、この5年で実際に世界の供給を大きく削ったのは、労使交渉ではありませんでした。
- 司法 — Cobre Panamá閉鎖(2023年11月):パナマ最高裁が採掘契約を違憲と判断し、世界供給の約1%を占めたFirst Quantumの主力鉱山が停止。2026年は国営鉱山会社を設立して再開する案が浮上し、年内の政府決定が見込まれる段階まで来ました。
- 事故 — Grasberg泥流(2025年9月):Freeport(FCX)が世界最大級の金銅鉱山で泥流事故(死者7名)に見舞われ、不可抗力を宣言。現在は能力の約5割で操業し、会社側は2026年後半に65%、2027年末までのフル操業復帰を掲げています。
- 事故と混乱 — El Teniente崩落(2025年7月):チリ国営Codelcoの主力鉱山で坑道崩落(死者6名)。同社の2025年生産は27年ぶり低水準の133万トンに落ち込み、さらに生産量の水増し計上が監査で発覚して幹部が刑事告発される事態に。
「銅の供給リスク」の中身が、ストライキのカレンダーから、司法・資源ナショナリズム・老朽鉱山の事故・そして関税へと広がった5年だった、というのが正確な総括です。
銘柄名鑑(2026年7月25日時点)
| 銘柄 | ティッカー | 時価総額 | 直近通期売上 | 一言 |
|---|---|---|---|---|
| サザン・コッパー | SCCO | 約$149B | $134億 | EBITDA率67%の優等生。FCXを時価総額で逆転 |
| フリーポート・マクモラン | FCX | $90B | $259億 | Grasberg事故から回復途上。米国内最大の精製銅生産者 |
| テック・リソーシズ | TECK | 約$30B | C$108億 | 石炭を売却し銅特化。Anglo Americanと合併最終盤 |
| JX金属 | 5016 | 約3.5兆円 | 8,846億円 | 2025年3月上場。公開価格の4倍超に |
| 住友金属鉱山 | 5713 | 約2.0兆円 | 1.74兆円 | Morenci実質25%などの権益派 |
| ベダンタ | (NSE/BSE) | — | — | ADRは2021年秋に廃止。2026年に5社分割完了 |
フリーポート・マクモラン $FCX — 事故を抱えつつ、関税の受益者
メモ時点の売上$142億(2020年)はFY2025に$259億へ。ただし2025年9月のGrasberg事故で2026年の生産は前年比大幅減(Q2は-18%)となり、世界順位もBHPに次ぐ2位級からCodelcoと2〜3位を争う水準に一時後退しています。一方で追い風もあります。FCXは米国内最大の精製銅生産者(鉱山生産の7割がアリゾナ州)で、COMEXがLME比$400〜600/トン高い現状は実現価格を直接押し上げます(Q2の実現銅価は$6.17/lbと前年の$4.54から急伸し、利益は市場予想を上回りました)。精製銅への段階関税が実現すれば、その恩恵が最も集中する銘柄です。
サザン・コッパー $SCCO — 「時価総額でFCX超え」の優等生
売上の約8割が銅という構成はメモの頃と同じですが、規模感が変わりました。FY2025は売上$134億・純利益$43億、直近四半期のEBITDAマージンは67%と圧倒的で、時価総額(約$149B)はFCXを上回ります。長年の懸案だったペルーのTía María鉱山(総投資$18億)は建設が中間点を越え2027年稼働予定。2029年に年産106万トンへの拡大計画を掲げます。親会社Grupo Méxicoが約9割を握るため流動性・ガバナンスに癖がある点は昔からの留意点です。
テック・リソーシズ $TECK — メモ後に生まれた「銅特化」の新顔
2021年のメモには登場しない銘柄ですが、今の銅株リストには欠かせません。2024年7月に原料炭事業をGlencoreへ売却して銅・亜鉛特化に転換し、さらに2025年9月にAnglo Americanとの$530億「Anglo Teck」対等合併を発表。両社株主とカナダ政府の承認を経て、完了は2026年9月〜2027年3月が見込まれる最終盤です。実現すれば銅比率7割超・2030年代初頭に年100万トン超という「Escondida級」の銅会社が誕生します。
ベダンタ — 「メモの銘柄が消える」の実例
メモに「NY市場ADR廃止」と注記されていた通り、NYSEのADRは2021年秋に上場廃止となり、米国から直接買う手段は消えました。その後も変化は続き、2026年6月に会社分割が完了して5社に分離。看板だったインドの銅製錬所(トゥティコリン)は2018年の抗議事件以来閉鎖のままで、2024年に最高裁が再稼働を退けて閉鎖が確定しました。5年前の銘柄メモをそのまま使ってはいけない、という本記事の教訓をまとめて体現している存在です。
日本の銅株 — 上場したJX金属という新しい選択肢
メモにはなかった日本側の変化がこれです。JX金属(5016)が2025年3月19日に東証プライムへ上場し、銅製錬に加えて半導体・AI向け機能材料(スパッタリングターゲット等)が評価され、株価は公開価格の4倍超・時価総額約3.5兆円と、老舗の住友金属鉱山(5713・約2.0兆円)を上回りました。その住友金属鉱山は米Morenci鉱山の実質25%(FCXのパートナー)やCerro Verde等の権益を持つ「鉱山権益派」で、銅価上昇の恩恵をより直接的に受ける構造です。三菱マテリアル(5711・約0.5兆円)を含め、「日本の銅」は製錬・材料・権益と役割が分かれている点を押さえておくと選びやすくなります。
ETFの現在地 — COPXは5年でAUM7倍、構成は別物に
メモにあったCOPX(Global X Copper Miners)は健在で、AUMは約$72億と5年で約7倍に育ちました。ただし中身は別物です。メモ時点の上位(Zijin・First Quantum・ベダンタ・FCX)のうちベダンタは除外され、現在はTeck・BHP・Hudbay・SCCO・First Quantumなどが5%前後で並ぶ分散型になっています。新顔としてICOP(iShares、2023年設定・経費率0.47%)、FCXに25%集中するCOPP(Sprott、2024年設定)も登場しました。なお東証の1693(WisdomTree銅上場投資信託)は銅「価格」に連動する商品で、鉱山「株」のETFではない点だけ混同注意です。
⚠ 留意点
- 価格変動が極端な商品です。2025年7月には関税の建付け判明だけで2日で約22%下落しました。精製銅への段階関税(2027年15%→2028年30%)の大統領判断が2026年7月時点で未発表であり、結果次第でCOMEXプレミアムと米生産者の収益前提が大きく動きます。
- 供給ショックは繰り返します。司法判断(パナマ)、事故(Grasberg・El Teniente)、資源国の政策変更はいずれも近年実際に起きたもので、個別銘柄の生産ガイダンスは常に下振れリスクを抱えます。
- 需要は中国が58%。AI・電網の物語が強くても、中国の景気・在庫サイクルが価格の重心であることは変わりません。AIの銅需要には過大評価を指摘する声もあります。
- 数値はすべて2026年7月25日時点の一次資料・市場データに基づきます。本記事は事実の紹介であり、特定銘柄・ETFの売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
一次情報(公式資料)
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出典:USGS Mineral Commodity Summaries 2026、JOGMEC鉱物資源マテリアルフロー2024、ICSG、米大統領布告(2025年7月)、各社IR・決算資料、LME/COMEX市場データ(2026年7月25日時点)。