「SAR衛星の世界三強」はいま — 日本の上場2社、非上場の巨人ICEYE、そして打ち上げ側のSPCX・RKLB
SAR(合成開口レーダー)衛星は、自ら電波を発して地上を撮像するため、夜でも、雲の下でも、地上の様子を捉えられます。光学衛星が撮れない時間と天候をカバーできるこの能力は、災害監視からウクライナ戦争以降の安全保障需要まで、いま最も注目される宇宙ビジネスのひとつです。
そして株式市場での面白い事実がひとつ。一定規模の「純SAR専業」上場企業は、世界でも東証グロースの2社——Synspective(290A)とQPSホールディングス(464A)——に実質限られます。本記事は編集部に寄せられた銘柄メモをもとに、時価総額・打ち上げ履歴・官需・決算まで全数値を2026年7月25日時点で検証し直して構成しました(メモからの訂正13件を反映。QPSの証券コード変更やSpaceX上場を含みます)。
世界地図 — 「三強」の実態は「ICEYE一強+日本の上場2社」
SAR衛星コンステレーションの世界勢力図を、まず正確に描き直します。フィンランドのICEYEが累計約76機と機数で圧倒的な一強。日本のSynspective(累計10機)とQPS(軌道到達13機)が上場組として続き、米国勢はCapella Spaceが2025年7月に量子計算のIonQへ買収されて独立系から脱落、Umbraは非上場のままです。「三強」というより「一強+日本2社」が2026年の実態です。
投資家目線で重要なのはここからで、機数一強のICEYEは非上場(2026年6月に評価額€10B超で€1B調達、私募継続中)。Capellaは買収済み、Umbraも非上場。つまり「SAR専業を株式市場で買う」選択肢は、実質的に日本の2社に集中しているのです(韓国KOSDAQに時価総額100億円規模のLumirが上場している程度)。市場自体はMordor Intelligence推計で2026年$5.86B→2031年$9.78B(年率+10.8%)と成長見通しです。
銘柄マップ(2026年7月25日時点)
| 企業 | ティッカー | 時価総額 | 衛星数 | 一言 |
|---|---|---|---|---|
| Synspective | 290A(東証G) | 約1,490億円 | 累計10機 | 全打ち上げがRocket Lab専用便 |
| QPSホールディングス | 464A(東証G) | 約842億円 | 軌道到達13機 | 旧QPS研究所(5595)。最終黒字転換 |
| ICEYE | 非上場 | 評価額€10B超 | 約76機 | 世界最大。IHIと日本で提携 |
| SpaceX | SPCX | $1.52兆 | — | 2026年6月上場。QPS・ICEYEの打ち上げ主力 |
| Rocket Lab | RKLB | 約$38B | — | 3社すべてと打ち上げ接点 |
時価総額は2026年7月24日終値ベース。衛星数はSynspective=累計打ち上げ数(公式PR)、QPS=軌道到達数(15機中2機はイプシロン6号機失敗で喪失)、ICEYE=Wikipedia集計の累計。
Synspective 290A — Rocket Lab専用便で30機を目指す
JAXAのImPACTプログラム由来の技術で創業し、2024年12月19日に東証グロース上場。StriXシリーズを累計10機打ち上げ、10回すべてがRocket Lab Electronの専用便という徹底ぶりです(2025年9月の追加契約で累計21機分の打ち上げを確保済み)。2020年代後半までに30機のコンステレーションを目指します。業績は先行投資期で営業赤字が拡大中(FY2025/12で営業損失41.4億円)ですが、会社計画ではFY2026/12に売上63.5億円(+167%)・最終黒字転換を見込みます。時価総額は約1,490億円と、メモ時点(約952億円)から5割以上増えました。
QPSホールディングス 464A — 波乱の打ち上げ史と、ひと足先の黒字転換
九州大学発、福岡拠点。2025年12月に持株会社体制へ移行し、証券コードは旧QPS研究所の5595から464Aに変わりました(旧コードで検索しても出てきません)。打ち上げ史は日本の宇宙輸送の変遷そのもので、初号機イザナギはインドPSLV(2019年)、2号機イザナミはSpaceXのライドシェア(2021年)、そして3・4号機は2022年10月のイプシロン6号機打ち上げ失敗で喪失。以降はRocket Lab Electronを主力(累計8回)に切り替え、軌道到達13機まで積み上げました。2028年5月までに24機、2030年までに36機が計画です。注目は業績で、FY2026/5期に純利益11.5億円と最終黒字転換を達成し、来期は売上100億円(+163%)を計画。専業SARの「稼げる証明」を先に出したのはQPSでした。
ICEYE — 非上場のまま巨大化する一強。日本への接点はIHI
2018年に世界初の100kg未満SAR衛星を打ち上げた草分けで、現在は累計約76機と世界最大のコンステレーションを運用。2022年8月にウクライナ軍へ衛星アクセスを提供した事例で一躍有名になり、以降はフィンランド・ポーランド・スウェーデン・ドイツ(Rheinmetallとの合弁で€1.7B規模)など各国防衛需要を総取りしています。なお、かつてExolaunch経由でソユーズを使った時期(2019〜2020年)がありますが、ロシアのウクライナ侵攻前の2021年からSpaceXへ全面移行済みです。上場観測は確認できず、2026年6月にも私募で€1B(評価額€10B超)を調達しました。日本の投資家にとっての接点は、2025年10月にIHI(7013)と合意した日本向けSARコンステレーション構築——IHI株が間接的な入り口になります。
打ち上げ側はどうか — SPCXとRKLB、両方とも上場している
メモの時点では「3社の打ち上げを担うロケット会社」のうち買えるのはRocket Labだけでしたが、状況は変わりました。SpaceXが2026年6月12日、ティッカー「SPCX」でNasdaqに上場したのです。公開価格$135・調達約$750億・評価額$1.77兆という史上最大のIPOで、初日は$161まで買われたものの、7月24日終値は$115.07と公開価格を約15%下回っています(売上$19.3Bに対し純損失$9.4B。ロックアップ解除は2026年12月から段階的に始まります)。上場したのはStarlinkと、2026年2月に統合したxAIを含む「全部入り」の本体です。小ネタとして、SPCXというティッカーは旧SPAC系ETFが使っていたものをSpaceXが取得したもので、昔の「SPCXはSpaceXではない」という注意書きは意味が逆転しました。
Rocket Lab(RKLB・約$38B)は本記事の3社すべてと打ち上げ接点を持つ唯一の会社です。Synspectiveは全10機がElectron専用便、QPSも2023年末以降の主力(8回)、ICEYEも2019年に1機をElectronで投入。Electronは累計83回の軌道打ち上げを重ね、大型機Neutronの初飛行を2026年内に目指しています。小型SARコンステレーションの「専用便需要」を最も直接的に取り込んでいる上場企業と言えます。
余談ながら、上場前のSpaceXに間接投資する手段として知られたDXYZ(Destiny Tech100)は、上場直前に53%あったNAVプレミアムがIPO後ほぼ解消しました。「本体が買えるようになるとプロキシの割増は消える」という教科書的な結末です。また、Alphabetが2015年の出資分(約5%)を保有し続けており、7月23日の四半期開示で持分$94Bと初めて時価評価されました——GOOGL株主は知らないうちにSpaceXを少し持っていたことになります。
日本2社の共通ドライバーは「防衛省の長期調達」
日本のSAR2社を支える最大の材料は官需です。2025年12月に落札者が公表された防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」(契約期間は2031年3月まで)では、三菱電機を代表とするSPC(SKY Perfect JSAT・三井物産出資)に対し、SynspectiveとQPSの両社が揃って画像データ提供パートナーとして参画。国産民間SAR画像を政府が長期調達する枠組みが初めて本格化しました。さらに両社は2024年11月、総額1兆円規模の宇宙戦略基金でも同時採択されています(QPS=量産加速化、Synspective=量産・打ち上げと性能向上)。「国が顧客」という構図は米国の政府ITサービス業(別記事)と同型で、安定収益と政策依存リスクが表裏一体です。
ETFでの持ち方
宇宙ETFの代表格は2本とも「打ち上げ側」を両方組み入れています:ARKX(ARK Space Exploration)はSPCXが筆頭7.96%・RKLB 4.80%、UFO(Procure Space)はSPCX 4.04%・RKLB 3.85%(いずれも2026年7月時点)。一方、日本のSAR2社は東証グロースの中小型株のため主要ETFへの組み入れは薄く、SAR専業に投資するなら個別株が基本になります。
⚠ 留意点
- 先行投資型の小型グロース株です。日本2社は売上数十億円に対し時価総額が数百億〜千数百億円で、計画未達・増資による希薄化の影響が大きい銘柄です。QPSの黒字転換も来期計画(売上100億円)の達成が前提の評価です。
- 打ち上げ失敗は現実のリスクです。QPSはイプシロン6号機の失敗で実際に衛星2機を失いました。特定ロケットへの依存は納期・価格の交渉力にも影響します。
- 官需は政策リスクと表裏一体です。防衛予算・宇宙戦略基金の方針変更は業績前提を大きく動かします。
- SPCXは公開価格割れの状態にあり、2026年12月以降のロックアップ解除売り、赤字体質、マスク氏がデュアルクラスで議決権8割超を握るガバナンス構造という固有の論点があります。
- 数値はすべて2026年7月25日時点の各社IR・取引所データ・公的資料に基づきます。本記事は事実の紹介であり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
一次情報(公式資料)
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出典:Synspective・QPSホールディングス・ICEYE・SpaceX・Rocket Lab各社公式、SEC/EDINET開示、宇宙戦略基金、Mordor Intelligence(2026年7月25日時点)。