INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第2号

ダウの犬と子犬の現在地 — 高配当10銘柄はAI相場に勝てたか

年末にNYダウ30銘柄から配当利回り上位10を等金額で買い、1年後に入れ替えるだけ——「ダウの犬」は1991年の書籍以来使われ続ける、最も単純な高配当戦略です。その成績はこの4年半で天国と地獄を往復しました。2022年はS&P500に約20ポイント勝ち、2023〜24年はAI相場に置き去りにされ、2025年は再び両指数に勝利。そして株価の低い5銘柄に絞る派生形「子犬(Puppies)」は、犬が勝った2022年に▲17.5%と大負けしています。

年次成績の実測、2026年の犬リスト、専用ETF(DOGG)の中身、筆頭犬ベライゾンのダウ除外まで、公式データと一次資料で検証して整理しました(2026年7月26日時点・編集部構成)。

ルール — 犬10銘柄と、株価で絞る「子犬」5銘柄

手順は3つだけです。①年の最終取引日にNYダウ30銘柄を配当利回り順に並べる。②上位10銘柄(=犬)を等金額で買う。③1年後に同じルールで入れ替える。マイケル・オヒギンズが1991年の著書『Beating the Dow』(邦題『ダウの犬投資法』)で広めた手法で、発想は「ダウに入るような優良株の高利回りは、株価が一時的に売られたサイン。配当をもらいながら平均回帰を待つ」というバリュー戦略です。

派生形の「ダウの子犬(Small Dogs / Puppies of the Dow)」は、犬10銘柄のうち株価の絶対値が低い5銘柄に絞ります。時価総額ではなく1株あたりの値段で選ぶ——という妙なルールは、NYダウが「株価の高い銘柄ほど影響が大きい」株価加重指数であることに由来する古い慣行で、企業の規模や割安さとは本来無関係です。この雑なフィルターが後述のとおり2022年に牙をむきます。

成績検証 2022→2026 — 勝ち・大負け・完敗・再勝利

各年の犬10銘柄・子犬5銘柄を等金額で年初に買った場合の暦年トータルリターン(配当再投資込み)を、公式サイトの銘柄リストと調整後株価から当サイトが実測しました。

犬10子犬5NYダウS&P500寸評
2022+2.2%▲17.5%▲6.9%▲18.1%犬はS&P500に約20pt勝ち。子犬は大負け
2023+14.5%+19.2%+16.2%+26.3%AI相場に劣後。子犬はINTC+95%で反発
2024+3.5〜3.9%▲7〜8%+15.0%+25.0%犬の最悪年。WBA▲6割・DOW▲23%
2025+18.9%+23.0%+14.7%+17.9%犬・子犬とも両指数に勝利(JNJ+47%等)
2026(7/24まで)+14.0%+7.4%+8.8%+9.0%犬が先行中

※当サイト算出(dogsofthedow.com掲載の各年構成銘柄×調整後終値、等金額・配当再投資)。指数はトータルリターン。2024年の犬・子犬は上場廃止となったWBAの年末値の資料差により幅表記。dogsofthedow.com公表の途中経過(2022年・2023年・2026年)と整合することを確認済み。

ポイントは3つあります。第一に、2022年の「犬の勝利」はディフェンシブ・バリューの勝利でした。ハイテクが崩れる年に、シェブロン・メルク・アムジェンを機械的に持っていたことが効いた。第二に、同じ2022年に子犬は▲17.5%——構成5銘柄のうちインテル▲47%・ベライゾン▲20%・ウォルグリーン▲25%と、「株価が低い」フィルターが拾ったのは割安株ではなく事故銘柄でした。銘柄数が5まで減ると、1銘柄の破綻がそのまま成績になります。第三に、2023〜24年にAI相場へ完敗した後、2025年は犬+18.9%・子犬+23.0%と両指数に勝ち、2026年も犬が先行中。「もう機能しない」でも「常に勝てる」でもなく、スタイルの循環そのものです。

長期では、マネックス証券の解説(2019年)が引くdogsofthedow.com集計で2000〜2018年の年平均は犬9.0%・NYダウ7.5%・子犬10%。同サイトの現行表記では2000年以降で犬8.7%・子犬9.3%です(基準時点の明示なし)。

2026年の犬・子犬 — そして筆頭犬が指数から消えた

#銘柄ティッカー選定時利回り子犬
1ベライゾンVZ6.78%🐶
2シェブロンCVX4.49%
3メルクMRK3.23%🐶
4アムジェンAMGN3.08%
5P&GPG2.95%🐶
6コカ・コーラKO2.92%🐶
7ユナイテッドヘルスUNH2.68%
8ホーム・デポHD2.67%
9ナイキNKE2.57%🐶
10ジョンソン&ジョンソンJNJ2.51%

※dogsofthedow.com掲載の2025年末基準リスト。🐶=子犬(株価下位5)。

そして今年、この戦略の歴史でも珍しいことが起きました。利回り6.78%の筆頭犬ベライゾンが、シーズン途中の2026年6月29日、Alphabetとの入れ替えでNYダウから除外されたのです(S&P DJIは発表文で「ベライゾンの指数ウェイトは約0.5%ポイントに過ぎない」と説明)。年1回入替の犬戦略に「保有中にダウから消えた場合」の公式ルールはなく、慣行どおりなら年末まで持ち切りですが、2027年の犬はベライゾン抜きのダウ30から選ばれることになります。

最大のリスクは減配より「ダウからの退出」

犬戦略の教科書的リスクは「高利回り=減配予備軍」ですが、実際にこの5年で起きたのはもっと構造的な事態でした。2022年の犬10銘柄のうち4銘柄が、2026年までにNYダウそのものから退出しています。

歴史をさかのぼっても、AT&T(2015年3月、Appleと入替)、そして1896年の算出開始時からのオリジナルメンバーだったGE(2018年6月、ウォルグリーンと入替)と、ダウを追われるのは犬の常連ばかり。高利回り上位という椅子は、指数退出の待合室と隣り合わせ——これがこの戦略の本当のテールリスクです。皮肉なことに、GEを追い出して入ったウォルグリーン自身が6年後に同じ道を辿りました。

ETFで買えるか — DOGGの中身と、一度死んだ犬ETN

DOGG FT Vest DJIA Dogs 10 Target Income ETF

First Trustが2023年4月26日に設定した、現存唯一の「ダウの犬」専用ETFです(経費率0.75%、純資産約8,000万ドル・2026年7月24日時点)。ただし中身は「犬10銘柄をそのまま持つ」ファンドではありません。犬構成銘柄とそのプット・コールFLEXオプション、短期米国債を組み合わせた合成型で、「NYダウの配当利回りを年約8%(控除前)上回るインカム」を目標に設計されています。その結果、分配金利回りは8.88%(2026年6月末時点)と高い一方、設定来リターンは年11.9%と、同期間のNYダウ(年17.4%)・S&P500(年23.0%)に大きく劣後——オプションでインカムに変換した分だけ、値上がり益を手放す構造です。「犬戦略そのもの」ではなく「犬を原資産にしたインカム商品」と理解するのが正確です。

先代は上場廃止 — ELEMENTS「Dogs of the Dow」ETN(DOD)

実は犬戦略の上場商品には前史があります。ドイツ銀行系が2007年11月に設定したETN「DOD」は、出来高低迷を理由に2019年4月にNYSE Arca上場廃止となり、2022年11月に満期を迎えました。単純明快な戦略ほど「自分で10銘柄買えばいい」ため、商品としては育ちにくいことを示す実例です。

類縁ETFと日本からの購入

近縁では、ダウの配当銘柄を利回り加重で持つDJD(Invesco、経費率0.07%)、S&P500系の10セクター×利回り上位5銘柄を均等加重するSDOG(ALPS、同0.36%)があります。東証ETF・日本籍投信に犬戦略を名乗る商品は存在しません(JPX上場ETF一覧で確認)。DOGGについてはFirst Trust Japanが取扱確認済み証券会社としてSBI・楽天・マネックス・松井・SMBC日興を掲げていますが(2026年7月時点)、実際に買えるかは各社の外国株取扱検索での銘柄単位の確認をおすすめします。

学術的な評価 — 「税とコストの後には残らない」

犬戦略は学術研究でも繰り返し検証されてきました。代表的な2本の結論は手厳しいものです。McQueen, Shields & Thorley(1997, Financial Analysts Journal)は、Dow-10戦略の超過リターンは統計的には確認できるが、リスク調整・取引コスト・特に税金を考慮すると経済的な優位はほぼ消えると結論。Hirschey(2000, The Financial Review)はさらに踏み込み、犬の優位は測定方法に起因する「神話」だと論じました(いずれも要旨は通説として広く引用されるもの)。

毎年全量を入れ替える犬戦略は、値上がりした銘柄の利益をその都度確定させるため、長期保有に比べて課税繰延の利点を失いやすい——日本の個人が特定口座でやる場合も、この「毎年の利益確定コスト」は同じように効いてきます。

日本版はあるか

戦略の性質上、母集団は「少数精鋭の優良株指数」である必要があります。IG証券の解説(2021年)は、225銘柄の日経平均では絞り込みの意味が薄れるため、30銘柄で構成されるTOPIX Core30から高配当銘柄を選ぶ応用を提示しています。商品化された投信・ETFはないため、実践するなら個別株を自分で組むことになります。東証の高配当株ETF(1478・1489等)という「銘柄選定を指数に任せる」代替も含めて、東証ETFデータ一覧で利回りと経費率を比較できます。

⚠ 留意点

一次情報(公式資料・出典)

FAQ

Q. ダウの犬(Dogs of the Dow)戦略とは何ですか?
毎年の最終取引日にNYダウ30銘柄のうち配当利回りが高い上位10銘柄を等金額で購入し、1年後に同じルールで入れ替えるだけの高配当戦略です。1991年のマイケル・オヒギンズ著『Beating the Dow(邦題: ダウの犬投資法)』で広まりました。優良株が一時的に売られて利回りが上がったところを拾う、平均回帰狙いの発想です。

Q. ダウの子犬(Puppies / Small Dogs)とは何ですか?
ダウの犬10銘柄のうち、時価総額ではなく「株価の絶対値」が低い5銘柄に絞る派生形です。ただし直近の成績は犬10銘柄と大きく乖離することがあり、2022年は犬が+2.2%だった一方で子犬は▲17.5%と大負けしました(インテル▲47%などが直撃)。銘柄数が5に減るぶん、個別銘柄の事故がそのまま成績になります。

Q. ダウの犬戦略のETFはありますか?
First Trustが2023年4月に設定したDOGG(FT Vest DJIA Dogs 10 Target Income ETF、経費率0.75%)があります。犬10銘柄にオプションを組み合わせて高い分配(直近利回り8%台)を狙う設計ですが、その分値上がり益を手放すため、設定来リターンは年11.9%とNYダウ(年17.4%)に劣後しています(2026年6月末時点)。なお2007年設定の犬戦略ETN(DOD)は出来高低迷で2019年に上場廃止になりました。東証ETFや日本籍投信に犬戦略の商品はありません。

Q. ダウの犬は市場平均に勝っていますか?
時期によります。直近では2022年にS&P500へ約20ポイント勝ち、2023〜2024年はAI相場に大きく劣後し、2025年は再びNYダウ・S&P500の両方に勝ちました。2000〜2018年の平均では犬9.0%に対しNYダウ7.5%というデータがある一方、学術研究(1997年・2000年)は取引コストと税金を考慮すると優位性はほぼ消えると結論しています。

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本記事はdogsofthedow.com、S&P Dow Jones Indices、First Trust、SEC EDGAR、学術文献、各証券会社の公開解説等の公開情報を基に当サイトが整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品・戦略の採用や銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。成績の実測値は当サイトの算出手法によるものであり、正確性を保証するものではありません。記載内容は作成時点のものであり、今後変更される場合があります。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:dogsofthedow.com(各年構成・YTD)、S&P DJIプレスリリース(2015/2018/2024/2026年の構成変更)、First Trust DOGG公式・EDGAR(DOD ETN 424B3/Form 25)、McQueen et al. (1997)・Hirschey (2000)、マネックス証券・IG証券解説、当サイト算出のトータルリターン(2026年7月26日時点)。