米国ゼロクーポン債の現在地 — 「30年で約4倍」の仕組みと、固定されないもの
残存28年超の米国ストリップス債(ゼロクーポン債)は、いま単価23〜24前後・利回り5.1〜5.2%水準——満期まで持てばドル建てで約4.2〜4.3倍になる計算です(2026年7月24日の30年金利5.16%基準の理論値)。「買った瞬間に利回りが固定され、複利で増える」——このシンプルな魅力には、しかし固定されないものが2つあります。途中の時価と、円に戻したときの金額です。
2022年7月に利回り2.88%・単価44.19で買われた実例(当サイトが記録を保有)をいまの金利・為替で再評価し、購入条件・税金・NISAの扱い・東証ETFという代替まで、財務省・FRED・国税庁・各社公式資料で検証しました(2026年7月26日時点・編集部構成)。
ストリップス債とは — 利付国債を「切り離した」ゼロクーポン債
STRIPSはSeparate Trading of Registered Interest and Principal of Securitiesの略。米財務省が直接発行するのではなく、金融機関が利付国債の元本部分と利子部分を切り離して組成したもので、財務省公式(TreasuryDirect)も「購入・売却は金融機関・ブローカー経由のみ」と説明しています。利息は付かず、額面100より大幅に安い単価で買って満期に100で償還される——差額がリターンのすべてです。元本ストリップスと利子ストリップスの2種がありますが、日本の証券会社で流通するのは主に元本部分です。
「トレジャリー・ストリップス=ゼロクーポン債」という理解は米国債の文脈では正確です(厳密には、1年以内の割引債T-Billもゼロクーポン債に含まれます)。魅力は3点に整理できます。①購入時に満期までの利回りが確定する、②利息の再投資が不要で自動的に複利になる、③分配がないため保有中に課税されず、複利が税金で削られない(課税は償還・売却時に繰延べ)。
2022年に2.88%で買った債券は、いまどうなっているか
当サイトの手元には、2022年7月23日時点の購入記録があります。「残存28.6年・単価44.19・税引前利回り2.88%」——検算すると半年複利の理論価格44.14とほぼ一致し、当日の30年金利3.00%とも整合する正確な記録です。この直後、市場は歴史的な利上げ局面に入りました。
| 時点 | 米30年金利 | 出来事 |
|---|---|---|
| 2022/7/22 | 3.00% | 購入時点。FF金利はまだ1.50-1.75% |
| 2023/10/19 | 5.11% | FF金利5.25-5.50%へ。約16年ぶりの高水準 |
| 2025/5/16 | 4.89% | Moody'sが米国格下げ(Aaa→Aa1)。翌週5.08%へ |
| 2026/5/19 | 5.18% | 5%台が定着 |
| 2026/7/24 | 5.16% | 現在。FF金利は3.50-3.75%まで低下しても長期金利は高止まり |
ゼロクーポン債はデュレーション(金利感応度)が残存年数とほぼ同じという、債券の中で最も金利に弱い構造を持ちます。残存24.6年になったこの債券を現在の利回り水準(5.1〜5.2%)で評価すると:
| 評価 | 購入時(2022/7) | 現在(2026/7・理論値) | 損益 |
|---|---|---|---|
| ドル建て単価 | 44.19 | 28.3〜29.0 | ▲34〜36% |
| 円建て(136.12円→163.79円) | 6,015円/額面100ドル | 約4,640〜4,750円 | ▲21〜23% |
27.7円の円安をもらってなお、円建てで2割超の含み損。同じ超長期ゼロクーポンを持つ米国ETFの実測では、ZROZ(残存25年超ストリップス)が2020年の高値から2023年の安値まで▲66%(分配込みでも▲63%)を記録しており、「国債なのに株より激しく動く」のがこの商品の途中経過です。
一方で、満期まで持てば話は別です。この債券のドル建て償還額は100÷44.19=2.263倍で購入日に確定済み。円建ての損益分岐は6,015円÷100ドル=1ドル60.15円で、そこまでの円高が来ない限り、2051年の償還時には円でもプラスです。「利回り固定」とは、満期のドル建て金額だけが固定され、途中の時価と円換算額は固定されない——これがこの戦略の正確な理解です。
いま始める場合の条件 — 単価23前後・約4.2〜4.3倍
皮肉なことに、2022年の買い手を苦しめた金利上昇は、これから買う人の条件を劇的に良くしました。2026年7月24日の30年金利5.16%を基準にした理論値です。
| 残存 | 想定利回り | 理論単価 | 償還倍率 | 164円で購入時の満期損益分岐為替 |
|---|---|---|---|---|
| 28.6年 | 5.1% | 23.7 | 4.22倍 | 38.8円 |
| 28.6年 | 5.2% | 23.0 | 4.34倍 | 37.7円 |
| 30.0年 | 5.16% | 21.7 | 4.61倍 | 35.5円 |
※半年複利の理論値(実際の販売単価はスプレッドを含み、各社ログイン後の表示で確認が必要)。参考にSBI証券の公式例示(2026年2月26日時点)は2054年5月償還(残存約28年)で単価27.39・利回り4.645%=約3.65倍。その後の金利上昇で条件はさらに良化している計算です。
よく比較される「外貨建てMMFで転がす」のとどちらが有利か——答えは時期によって逆転してきました。2022年夏はゼロクーポン債が有利(MMF約1%台 vs 2.88%)→ 2023〜24年の逆イールド期はMMFが上(米ドルMMF5%前後 vs 30年債3.9〜5.1%)→ そして2026年7月は再びゼロクーポン債が有利(5.1〜5.2% vs 3.1%前後)。カーブの形で答えが変わる比較だということ自体が、この4年間のデータが教える教訓です。
どこで買えるか — 在庫はSBIが公称35銘柄以上、松井は取扱なし
- SBI証券:ストリップス債を「常時35銘柄以上」と公式に明記(米国債全体で70銘柄以上)。額面100ドル単位=数千円から購入可。取引手数料は別途かからず取引価格に内包(スプレッド方式)。リアルタイム為替手数料は0銭。
- マネックス証券:ストリップス債の取扱あり(公開例示は2049年償還・利回り4.76%=2025年9月時点。単価はログイン後表示)。額面100ドル単位、円貨での買付時の為替手数料0銭・円転時25銭。
- 楽天証券:毎営業日更新の公開ラインナップ(2026年7月24日取得)には利付米国債のみでストリップスの公開在庫はなし(ログイン後の在庫は未確認)。リアルタイム為替0銭。
- 松井証券:米国債の取扱自体がありません(2026年7月26日時点)。米ドル建ての選択肢は米ドルMMF(直近利回り3.107%・2026年7月13日時点)まで。
「ネット証券で買える・在庫はSBIが厚い・対面証券は手数料に注意」という構図は、2022年からほぼ変わっていません。変わったのは為替コスト——当時標準だった片道25銭が、SBI・楽天のリアルタイム為替では0銭になり、往復の摩擦はほぼ消えました。
税金 — 譲渡所得20.315%・特定口座OK・ただし新NISAでは買えない
2016年1月の金融所得課税の一体化以降、米国債を含む特定公社債の税制は株式とほぼ同じ土俵になりました。国税庁タックスアンサー(No.1463)にも、国債・外国国債が申告分離課税20.315%の「上場株式等」に含まれ、譲渡価額には償還により受け取る金額を含むことが明記されています。
- 償還差益・売却益:申告分離20.315%。特定口座(源泉徴収あり)に入れられ、株式・ETF・投信と損益通算可能。為替差益も譲渡損益の円換算に内包されます。
- 一般口座の罠:割引債の償還時は「みなし割引率25%」×20.315%が償還金額に対して源泉徴収されます(実際が損失でもいったん源泉→確定申告で精算)。特定口座なら実際の差益に対する源泉で済むため、実務上は特定口座一択です。
- 新NISAは対象外:NISAの対象は上場株式・ETF・公募株式投信等で、個別債券は成長投資枠でも購入できません。非課税で超長期米国債を持ちたい場合は、後述のETF(2621等はNISA対象になり得る)が代替になります。
- 外貨建てMMFとの課税差:MMFは分配のたびに利子所得として20.315%課税され複利が毎回削られるのに対し、ゼロクーポン債は償還・売却まで課税されません。この繰延べ効果は長期になるほど効きます。
東証ETFという代替 — 「償還のある個別債」と「償還のないETF」
| コード | 名称 | 対象 | 信託報酬(税抜) |
|---|---|---|---|
| 2621 | iシェアーズ 米国債20年超(為替ヘッジあり) | 20年超・円ヘッジ | 0.14% |
| 2255 | iシェアーズ 米国債20年超(ヘッジなし) | 20年超 | 0.14% |
| 179A / 180A | グローバルX 超長期米国債(ヘッジあり/なし) | 25年超 | 0.095%以内 |
| 182A / 183A | MAXIS 米国国債20年超(ヘッジなし/あり) | 20年超 | 0.12%以内 |
個別のゼロクーポン債との違いは4つ。①ETFは利付債の集合で分配があるため課税繰延べの利点が薄い、②満期がない(残存を保つよう入れ替え続ける)ため「◯年後に額面で戻る」という確定キャッシュフローは作れない、③ヘッジあり型はヘッジコスト(≒日米短期金利差、現在年3%弱)がリターンを削る、④NISA成長投資枠の対象になり得る(個別債券は不可)。「満期の確定性」を取るなら個別債、「NISA・少額・流動性」を取るならETF、という整理になります。利回り・経費率の横断比較は東証ETFデータ一覧(2621掲載)でどうぞ。
⚠ 留意点
- 途中の時価は固定されません。デュレーション≒残存年数のため、金利1%ポイントの上昇で価格は2割超下がり得ます(2022年購入例はドル建て▲34〜36%、ZROZは2020→2023年に▲66%)。「満期まで持ち切れる資金かどうか」がこの商品の適合性のほぼすべてです。
- 円換算額も固定されません。満期の損益分岐為替(今回の試算で38円前後、2022年購入例で60円)は歴史的には遠い水準ですが、償還時に円転するかどうか・その時のレートは誰にも固定できません。なお日銀は2026年6月に政策金利を1.0%へ引き上げ「引き続き利上げ」を明言しており、円金利の上昇は円高リスク要因です。
- 米国の財政リスクは価格に現れ始めています。2025年5月のMoody's格下げで3大格付けの最後のトリプルAが消え、30年金利は5%台が常態化。大型減税法(2025年7月成立)による赤字拡大見通しもあり、「無リスク資産の金利」自体が動く時代です。
- 単価・利回りの実売値は各社ログイン後の表示で確認してください。本記事の現在値は公式の時点付き例示とパー利回りからの理論値です。本記事は情報提供であり、特定の債券・商品の購入を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
一次情報(公式資料)
FAQ
Q. ゼロクーポン債とトレジャリー・ストリップスは同じものですか?
米国債の文脈ではほぼ同義です。STRIPSは金融機関が利付米国債の元本と利子を分離して組成したもので、利息が付かない代わりに額面より大幅に安い単価で買い、満期に額面(100)で償還されます。日本の証券会社で流通するのは主に元本部分のストリップスです。厳密には1年以内の割引債T-Billもゼロクーポン債に含まれます。
Q. いま米国ゼロクーポン債を買うと満期に何倍になりますか?
2026年7月24日時点の30年国債利回り5.16%を基準にした理論値で、残存28.6年なら単価23〜24前後・ドル建てで約4.2〜4.3倍、残存30年なら約4.6倍です。証券会社の公式例示でも2026年2月時点で残存約28年が単価27.39・利回り4.645%(約3.65倍)でした。実際の販売単価は各社にログインして確認する必要があります。
Q. 米国ゼロクーポン債の税金はどうなりますか?NISAは使えますか?
2016年の金融所得課税一体化により、償還差益・売却益は上場株式等と同じ申告分離課税20.315%で、特定口座に入れられ、株式やETFと損益通算できます。為替差益も譲渡損益に含めて計算されます。ただし一般口座では償還時に「みなし割引率25%」で源泉徴収される点に注意。新NISAでは個別債券は対象外のため非課税では買えません(米国債ETFの2621などはNISA対象になり得ます)。
Q. 「利回りを固定できる」のに損をすることがあるのはなぜですか?
固定されるのは満期まで持った場合のドル建て償還額だけで、途中の時価と円換算額は固定されないからです。ゼロクーポン債はデュレーションが残存年数とほぼ同じで、金利1%ポイントの上昇で残存28年なら価格が2割超下がる計算です。実例として、2022年7月に利回り2.88%・単価44.19で買われた残存28.6年の債券は、金利が5%台に上がった2026年7月時点でドル建て評価が約3分の2(▲34〜36%)になっています。
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本記事は米財務省・FRED・国税庁・金融庁・日本銀行・各証券会社の公式公開資料等を基に当サイトが整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入・売却を推奨・勧誘するものではありません。理論単価・償還倍率・損益分岐為替は算出時点の市場利回りに基づく試算であり、実際の取引条件とは異なります。債券は金利・為替・信用状況により元本を大きく割り込むことがあります。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:FRED(DGS30・FF金利・DEXJPUS)、米財務省日次イールド(2026年7月24日)、TreasuryDirect、国税庁タックスアンサーNo.1463、金融庁NISA公式、日本銀行公表文(2025年12月・2026年6月)、SBI証券・マネックス証券・楽天証券・松井証券の公式ページ(各時点明記)、JPX ETF一覧。円換算・理論値は当サイト算出(2026年7月26日時点)。